2021年5月10日 株情報

(2021年5月9日執筆)


前回の原稿執筆から約1ヶ月半が経過しましたが、その後の株価の動きがどうなったか分析してみましょう。まず最初にナスダックのチャートをご覧下さい。前回の原稿時と比べて大きな進展がありました。前回の原稿において、『当面のナスダック最大の注目ポイントは、A‘とDのどちらをブレイクするか』と述べましたが、Dを上方ブレイクアウトしたことが分かります。これにより、依然としてピンク色のラインで描いた上限上昇トレンドラインAと下限上昇トレンドラインA’に挟まれた上昇トレンドチャネル(トレンドラインレンジとも言う)は機能していることが再確認でき、上昇トレンドは継続中であることが分かるのです。
(●上昇トレンドチャネルについては、渋谷高雄株式投資大百科第5章第6項等を参照)
しかし気になるのは、ダウが新高値を更新して上昇トレンドが強力であるのに対し、ナスダックは新たに形成された抵抗線C(緑色のライン)によって上昇が阻まれ、いわゆるWトップのチャートパターンを形成しそうになっていることです。
(●Wトップについては、同第5章第10項等を参照)
ダウが高値更新中である以上、出遅れ物色と称してナスダックもいずれ追随して上昇することがメインシナリオとなりますが、再びナスダックが下限上昇トレンドラインA’を割るとWトップのチャートパターン完成と言えるので注意が必要です。しかし反対に、ナスダックが緑色の新レジスタンスCを上方ブレイクアウトできれば、それはむしろWトップチャートパターンの形成失敗となり、非常に強い買いシグナルとなります(俗称:「バスカヴィル家の犬」というパターン)。その場合には上限上昇トレンドラインAに下からタッチするあたりまで上昇して、セルインメイ(5月は下げる)のアノマリーも無制限金融緩和の威力の前にたいした下げにはならず、そのままサマーラリーに突入することもあり得ます。そのファンダ的背景事情として、コロナワクチンが普及しているアメリカはすでに経済再開ムードであり、株の買い圧力は強いそうですが、かといって高値は買いたくないという心理も大きく、安値を拾うというハイエナ的虎視眈々ムードの待機マネーが多いという現地からの情報があります。
次にTOPIXのチャートをご覧下さい。4月に下限上昇トレンドラインA’を割ったことにより、アメリカに比べて周回遅れで下降トレンドラインレンジD-D’が形成されました。しかし株価は現在、下からDに接近する動きを見せており、アメリカの上昇トレンドを考えれば近くDを上方ブレイクアウトして、今度は下からA’に接近するまで上昇するのがメインシナリオとなります。
以上の両チャートのこれらの動きから、今年の日経平均の動きのイメージは2017年型であることが予想できます。2016年11月12月に急騰したのも似ているのです。
2017年では調整場面は2回あり、

  1. 一、3月下旬から4月下旬までの19600円から18200円の▲1400円(約7~8%下落)
  2. 二、8月上旬から9月上旬までの20200円から19200円の▲1000円(約5%下落)

その2回目の調整の後に、9月から11月上旬までの2ヶ月強の期間で一気に19200円から23400円まで▽4200円上げたのです(約22%上昇)。

では、30000円から38000円バブル高値奪還までの上げが、夏から秋にかけて本当に来るのでしょうか? 秋のFOMCで「テーパリング」開始を決定して第4四半期中に実行に移すというのが、現在において市場に台頭しつつあるスケジュール感なので、秋はむしろ大暴落への警戒も必要という見方もできるのが今年の難解なところです。やや先の話しになりますがこれについては、2017年同様に今年の夏以降に来るであろういったんの調整の様子を見てから再度予想してきたいと思います。

いずれにせよ、今年の当面の下値は堅牢そうなのです。その最大の需給的理由として、日銀黒田が3万以上の高値追いはしないけど急落場面では買い支えるよ、と暗黙の宣言をしたことがあるのです。昨年11月以降の日経急騰の原動力としては投資主体別売買動向から、やはり自己と外国人のそろった爆買いがありました。この両者がそろって買いに転じると、日銀がよほど大きな年金換金売りでもぶつけない限り、やはり上がるのです。では黒田はる彦は、どういう場面なら買うというのでしょうか? そのヒントは、3月19日に日銀が公表したETF買い付け方針の変更にあります。その大まかな内容ですが、

  1. 【1】「日本株ETFを年間6兆円買い入れする原則」を削除
  2. 【2】必要に応じて「年間上限12兆円まで日本株ETFを買い入れる」方針は残す
  3. 【3】日経平均連動型のETF買い付けはやめる。買う場合は、TOPIX連動型ETFにする

要は黒田の手口とは『日経平均が上がっている時は自己と外国人に任せて、うちは急落した時にだけ買い支えるわ』ということです。また、「日経平均だけを集中的に買い上げるのはやめて、東証一部全体を買う」とも表明しましたが、これはプライム市場などの東証再編を意識してのことでしょう。
つまり、高値を追うのは自己と外国人、安値を買い支えるのは日銀黒田という構図が当面は続くわけで、この需給関係では2017年型のチャートが示現するだろうというのが今年のメインシナリオになるのです。
あとはマザーズの弱さが気になりますが、前回のチャート上のA’で止まるかどうかです。マザーズ弱さのひとつの要因として、6月末までの東証再編に絡む需給関係があるでしょう。プライム残留を賭けて当落ギリギリラインの中小型株の買い支えが活発化することが予想されるので、6月末まではそちらにお金が集中して新興市場を買う余力が乏しいと予想できるからです。