2022年6月27日 株情報追加

2022年6月27日 株情報追加

(2022年6月26日執筆)

先週金曜日のアメリカ市場において、S&P500種株価指数は前日比3.1%高の3911.74と2020年5月以来の大幅高となり、週間ベースでは6.5%上げて約1カ月ぶりの大幅上昇となりました。さて問題は強いこの上昇力が持続するかどうかですが、これまでの原稿で何度も触れてきたように、「インフレ動向の改善に基づかない相場上昇は偽物の上昇というのが機関投資家の総意」という前提がマーケットを支配しているうちは、とにかくインフレがピークアウトしたという指標数値が出現してくれない限り、空売りトレードの基本である「戻りは売り」圧力の前に株価反発は持続できないでしょう。しかしここに至り、短期的な近い未来においてインフレピークアウトを予感させる指標数値がついに出そうな気配なのです。そこで今回は、前回で述べたところの今年後半相場の最大のカギとした以下テーマについてまとめました。

【カギその1】インフレピークアウト数値出現

【1-1】機関投資家が「ゲームチェンジャー」と表現した6月のミシガン大学消費者マインド指数速報値が修正された

タイムリーなことに、非常に大きな材料が先週金曜日に投下されました。そもそも6月9日から17日に至るS&P500種株価指数の約4100ポイントから3650ポイントに至る7営業日の急落のファンダ的原因の解釈は、米ミシガン大学が6月10日に発表した1年先の期待インフレ率の「速報値」が5.4%、5-10年先の期待インフレ率のこれまた「速報値」が3.3%だったことで、FRBがこれをインフレ急加速のシグナルと解釈する危険が高いとみなされたからです。どういうことかというと、その数日後に機関投資家野村証券から分かりやすい解説が出たので、その概要を以下に引用してみましょう。

(以下引用)
衝撃を与えたのは10日のニューヨーク市場引け間際に発表された6月のミシガン大消費者マインド指数だったが、それも比較的大きく報じられる「信頼感指数」ではなく、「5-10年長期期待インフレ」という平常時にはあまり気にされない指標である。その6月の速報値がプラス3.3%と、5月の同3.0%から上振れたことは株式市場にとって不意打ちかつ明確な悪材料と言える。なぜならこの指標はコロナ禍にあっても最大で3.1%にとどまっていたので、一部のFOMCメンバーに「インフレ率はいずれ自然に低下する」という見方をさせる重要な論拠になっていたからだ。しかし3.3%という予想外の上振れになったことで論拠が失われたと言える。これまで米国の消費者は、昨年来のガソリン高、食料品の大幅値上げ、外食・宿泊の大混雑と価格高騰といった一連の現実のインフレ率上昇に歯止めがかからない中でも、これらをコロナ禍特有の現象と受け止めていたと当社は仮説している。つまり消費者の長期期待インフレは落ち着いており、それはコロナ終息とともに沈静化するだろうと消費者は直感していた。しかしウクライナ情勢の悪化という新たなグローバル要因が加わったことで、物価高に拍車がかかり、米国の消費者は「インフレは長期化するのではないか」と疑念を抱き始めたため、高賃金の要求などを通じて、自己実現的なインフレ上昇圧力は強まっていく見通しに変化した。そのために株式市場では10日以降、インフレを鎮静化させるためにFRBは大幅利上げで景気をリセッションに追い込むのをやむなしとする悲観シナリオが勢いを増したことが株の投げ売りにつながった。
(以上引用終わり)

そして結局、パウエルFRB議長は6月のFOMC後の記者会見で、この3.3%という数値を「強く目を引く統計だった」と表現し、予想を上回った5月の消費者物価指数(CPI)とともに、今回75bpの利上げを決定する一因になったと説明したのです。

上記機関投資家野村証券の他にも多くの機関投資家が、このミシガン大学が発表した消費者マインド指数(速報値)で、5-10年先のインフレ期待が3.3%(前月3.0%)に上昇して2008年以来の高水準を記録した点について深刻な懸念を表明しました。中でも今回のFOMCでの0.75ポイント利上げを最初に予測した機関投資家バークレイズとジェフリーズは、インフレ期待が不安定化しつつある可能性示す証拠にミシガン大学の調査結果を掲げ、ジェフリーズはそれを「ゲームチェンジャー(状況を一変させるもの)」とすら呼んだのです。ただ、パウエルFRB議長は会見において、今後数カ月はインフレ低下の説得力のある証拠を探すので利上げペースはそのデータ次第になるが(筆者注※後述【1-2】につながる)、指標は「短期的なインフレ率は高いが、中期的にはインフレ期待が急激に低下する」という見通しも示したのです(筆者注※後述【1-3】につながる)。

ところが?!
実に14年ぶりの高水準となっていたこのインフレ期待の速報値が、なんと確定値で下方修正されてしまったのです。5-10年先のインフレ期待確定値は3.1%と、速報値の3.3%から下向きに修正され、1年先のインフレ期待確定値も5.3%と、速報値の5.4%から下向きに修正されてしまったのです。ミシガン大消費者調査ディレクターは発表文で、6月確定値での長期インフレ期待の下方修正は、数年先に関して極めて低いインフレを予想する消費者の割合が高まったことが理由だと説明したそうです。

あれ?!
先ほどの機関投資家野村証券の見解では、5-10年長期期待インフレ6月速報値の3.3%という数字は、コロナ禍最大値3.1%より予想外に上振れてしまったので、インフレ率はいずれ自然に低下するという一部FOMCメンバーの重要な論拠を失わせたと論じていました。さらには、機関投資家ジェフリーズが表現した「ゲームチェンジャー」は言わば、勇み足的な過大表現となり、結局は5-10年長期期待インフレ6月確定値3.1%という数字は、コロナ禍最大値3.1%とギリギリ同じだったわけで、結局は「ゲームチェンジャー」という言い方は大げさだったということになります。よって、利上げペース加速を巡る米金融当局の切迫感を和らげる可能性がにわかに急浮上したとされ、それが先週金曜日のアメリカ市場の大陽線示現につながったようですね。

【1-2】次の最大の焦点は、変動の大きい食品とエネルギーを除くコアCPIが「前月比」で低下するかどうか

では、そのゲームチェンジャーが幻想だったとして、今回の窓空け大陽線が本当にトレンドの大転換につながるほどのエネルギーを秘めているのでしょうか?
(●トレンド大転換のシグナルについては、渋谷高雄大百科第3章第7~8項(P135~139)等を参照)
しかし今までが今までだけに簡単には信用できないというのが現在の多くの個人投資家の心境でしょう。しかし前回の株情報原稿で筆者は以下のように述べました。

>情報入手の早い機関投資家は、例えばウクライナ侵攻を確信してイチ早く売りに動いた時と今度は反対に、インフレピークアウトを確信させる数値が出る前にイチ早く買いに動くことが予想される。

仮に今回の大陽線が、これまで様子見を続けてきた機関投資家の買い転換への変化の初動であれば、置いてきぼりされないように私たち個人投資家もせめて打診買いくらいはしておかないと後で猛烈な後悔に襲われそうではあります。例えば、6月20日付けロイター報道では、機関投資家ダコタ・ウェルスのシニア・ポートフォリオ・マネジャーの見解として「インフレ鈍化の兆しをしっかりと確認したい。それまでは余剰キャッシュを抱えたまま様子見を続ける」と語ったことが紹介されていましたが、この記事が出た時点がS&P500種株価指数の直近最安値3650ポイント付近であったのが、いきなりわずか5営業日後に今回の大暴騰が発生した不可思議から、待機を続けてきた機関投資家の余剰キャッシュに買いの大逆流が発生しつつあるかもしれないのです。なぜなら、前述のようにパウエルFRB議長は会見において、今後数カ月はインフレ低下の説得力のある証拠を探すので利上げペースはそのデータ次第になると述べましたが、情報の早い機関投資家は必ずデータが出そろう前に買い始めるのは間違いないからです。そこでまもなく到来する参考になりそうな指標に注目したいと思います。それはやはり、7月上旬発表予定の次回消費者物価指数(CPI)でしょう。前項でも述べたようにパウエルFRB議長をして、予想を上回った6月公表の5月分CPIがミシガン速報値と共に、これが75bp利上げ決定の一因になったと言わせたからです。そして、余剰キャッシュを抱えたまま様子見を続ける機関投資家の総意としては、変動の大きい食品とエネルギーを除くコアCPIが、「前月比」で低下することが重要らしいのです。ちなみに5月分(6月発表)は前月比では0.6%の上昇でした。このコアCPIが重要なのは、インフレのせいで秋の中間選挙で大敗の恐れがあるバイデン民主党政権が「変動の大きい食品とエネルギーを除くコアCPIが落ち着いたのは良いこと」だと声明を出したことからも伺えるのです。ここでバイデン政権が「コアCPIが落ち着いた」と評したのは、変動の大きい食品とエネルギーを除くコアCPIが、「前年同月比」で前4月が6.2%の上昇で、5月の予想中央値が5.9%上昇のところ、実際には6.0%上昇だったので、予想中央値を0.1%だけ超えたものの、前4月より0.2%の低下はしたことによるものです。しかし、秋の選挙が気になる政治家ではなく、実際にマーケットで余剰キャッシュの投入タイミングを伺う機関投資家の目線は少し違っている模様で、例えば投資調査会社22Vリサーチの創業者は、金融状況のさらなる引き締まりを意味するシグナルのひとつとして、コアCPIが「前月比」で低下しなかった(前月比0.6%上昇)ことを挙げたそうです。では、来月7月公表予定の6月分のコアCPIが「前月5月比」で低下する見込みはあるのでしょうか?それについては、過去3回のインフレ持続予想を的中させて、約1年前にアメリカで高インフレが長引くことも的確に予測したブルームバーグのコラムニストであり著名な債券市場ストラテジスト、モハメド・エラリアン氏の見通しが参考になりそうです。同氏によれば、懸念しているのは6月の「前月比」上昇率が5月よりも悪化するのではないかという点だそうです。つまり、前月比0.7%以上の上昇が見込まれるということになります。同氏の過去の的中率の高さを考えれば、次回の悪化の可能性は極めて高いと推定せざるを得ません。よって、次回CPIでヘッジファンドに大規模な売り仕掛けをかけられる危険性が大いにありうるのです。ただ、衝撃的だった6月公表の5月分CPIの次回悪化が広く予想されてしまっている以上、すでにチャートには織り込み済みかもしれません。よって悩ましいのは、仮に機関投資家がさらにその次の8月公表予定の7月分が前月比下落という情報先回り入手をしているのであれば、予想される次回CPIでのヘッジファンド大規模な売り仕掛けが、それこそ第3段階「反発が持続するか確認するために再び安値を試す」の最終段階最後の下げになる可能性は大いにありえます。
(※筆者注釈:この第3段階については、2022年6月3日 株情報(追加【Ⅱ】)の【21】5月25日「株式相場は急落した後、底入れまで4段階のプロセスに従うことが多く、現在はその第2段階の相場は反転上昇」の③調査会社ネッド・デービス・リサーチの項目参照のこと)
前回の株情報のチャート分析でのテクニカル面における今後の下値が限定的と思えることも合わせて考えれば、今の局面での打診買い+次回CPI通過での第2次買いが筆者の想定する今回のメインシナリオです。

【1-3】半導体セクターや海運セクターの調子の悪さとインフレピークアウトの相関性

次に、インフレのピークアウトを裏付けるような各種数値や機関投資家の分析については、いくつかのカテゴリーに分類できると思えます。それらを羅列していくと、以下のようになります。

・住宅市場の動向
・消費者の好みの変化による在庫問題とサプライチェーンの相関性
・労働市場と貯蓄低下、クレジットカード利用増の相関性
・石油・資源価格下落の見通し(2022年6月3日 株情報(追加【Ⅱ】)【27】6月1日「原油相場は現在の1バレル120ドルに対し、適切水準は70ドル」参照)
・仕入れ価格の下落の見通し
・需要、生産拡大の見通し

などに分類できるのですが、いかんせん今回も執筆時間の都合によりこれらを体系的にまとめるのは次回にさせて頂いて、今日は筆者が最重要と考える記事の紹介だけはしておきたいと思います。それは6月7日付けブルームバーグ報道なのですが、現在の高インフレをもたらしている供給サイドの主要ファクターのうち、
①半導体価格
②コンテナ輸送のスポット(随時契約)運賃
③北米の肥料価格

の3つの指標が既にピークを打ったとみられ、世界の消費者が待ち望むインフレ減速が間近に迫っている可能性があるというものです。その3つの指標の各詳細ですが、

①については、ノート型パソコン(PC)や自動食洗機、LED電球、医療機器など多様な電子機器完成品の将来コストの目安となる半導体価格の指標は現在、2018年7月のピーク時の半分まで下げており、昨年の年央時点の水準を14%下回っている。

②については、シカゴのアパレルやシンガポールの高級品、欧州の家具・インテリアの流通経路での費用の目安となるコンテナ輸送のスポット運賃は、過去最高を記録した昨年9月から26%下げている。

③については、世界の食料品価格上昇の先行きを示す北米の肥料価格は3月の過去最高値を24%下回っている。

さらにこの3つの指標に加えて、中国の生産者物価指数(PPI)の上昇率が昨年10月にピークを付けた後に鈍化していることも世界的な輸入インフレの緩和を示唆する有望な兆候だとオーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)のアジア調査責任者が分析しています。それによれば、「世界の一部地域のインフレはまだピークに達していないものの、年間インフレ率が下がり始める転換点がそれほど遠い先ではないことを示す少なくとも幾つかの兆候がみられ、購買担当者指数(PMI)のコンテナ輸送運賃が下落し、サプライヤー納期が改善したことは供給面のボトルネック緩和を示しており、年内に物価圧力は抑制される」という予測をしています。なるほどたしかに、前述のようにパウエルFRB議長は会見において、指標は「短期的なインフレ率は高いが、中期的にはインフレ期待が急激に低下する」という見通しを示しましたが、こうした価格や運賃の下落が根拠になっている可能性が大いにありそうですね。そう言えば最近の日本株でも半導体セクターや海運セクターの調子は確かに悪いですね。これは2022年5月30日 株情報(追加【Ⅲ】)【31】5月28日「いきなりバリュー株の投資判断が引き下げされる。そして、ほくそ笑むパウエル議長と相場に底を打ち始めた兆候」①機関投資家クレディ・スイスとバンク・オブ・アメリカ(BofA)の項目で「27日、バリュー株の投資判断をそれぞれ引き下げた」という記事に遠因があると筆者は考えていたのですが、それと合わせてこの①と②の影響も大きかったのでしょう。