2022年7月4日 株情報追加
(2022年7月3日執筆)
【カギその1】インフレピークアウト数値出現に関して、追加で出された重要な報道まとめ
1週間前に執筆した前回の株情報の内容において、「しかしここに至り、短期的な近い未来においてインフレピークアウトを予感させる指標数値がついに出そうな気配であるが、ゲームチェンジャーが幻想だったとして、今回の窓空け大陽線が本当にトレンドの大転換につながるほどのエネルギーを秘めているのだろうか? 今までが今までだけに簡単には信用できないというのが現在の多くの個人投資家の心境だろう」と述べました。その後の株価の動きは4営業日続落するも、直近最安値を割ることはなく小反発という迷いを体現したような動きとなっています。これも前回の内容で述べたことですが、次回CPIでヘッジファンドによる再度の大規模売り仕掛けをかけられる危険性が大きいとは言え、この小反発が例えば過去の2016年6月下旬から7月上旬にかけての大局的な転換点の初動の期待はあります。今回もロイター、ブルームバーグ、ストックボイスなどの報道記事を参考にしています(これまで何度も述べてきた通り、個人投資家にとって各社記事の日々のチェックはファンダ動向をつかむ上で必要不可欠な作業と言えるでしょう)。さてまずは、6月後半の報道によれば機関投資家ブルーベイ・アセット・マネジメントの最高投資責任者は、「市場が安定し相場が上昇するには、インフレがピークアウトしたという材料がある程度出てくる必要がある。それは弱気相場が終わるための前提条件といってよい。それはまず債券で、次に株式で起こるだろう」との見方を示したそうです。他にも、この数日の報道から筆者が注目した記事がいくつかあります。例えば機関投資家プリンシパル・グローバル・インベスターズの分析として「米国のインフレはピーク到達に近づきつつあるようだ。消費者はモノからサービスにシフトし、全体の需要は鈍化し、コア消費財の物価圧力もよりデフレ気味になりつつある」といった内容や、機関投資家インガルス・アンド・スナイダーの「インフレがピークに達した可能性を示す初期の兆候が出ているが、依然として経済と物価動向を巡る多くの不確実性が存在している。FRBが利上げ継続の姿勢を変更するには、さらに多くの証拠が必要になる」といったものです。このように機関投資家もインフレピークアウトの手ごたえをそろそろ感じている模様です。他にも特に驚いた記事として、機関投資家ウェルズ・ファーゴの「長く続けてきたバリュー株選好の方針を転換した。景気が減速しつつある状況にあり、より長期のインフレ期待も和らぎつつあるようだ。我々は一定の成果を挙げた後、約2週間前にシクリカル(景気循環)陣営を離れた」といった投資方針の劇的な転換を知らせる内容もありました。だからと言って即時トレンド転換につながると断言できないのは、上記ブルーベイの見解にもある通り、これでようやく前提条件をクリアできたに過ぎないと機関投資家が依然として慎重姿勢を崩さないからです。機関投資家も余剰キャッシュの投入タイミングを伺っているというのは前回株情報で述べた通りですが、それは今後の企業業績の動向次第ということなのでしょう。
次に、前回の株情報において、【1-1】から【1-3】まで執筆しましたが、その続きは以下のトピックに整理できそうです。
【1-4】住宅市場の動向
【1-5】消費者の好みの変化による在庫問題とサプライチェーンの相関性、及び仕入れ価格の下落の見通し
【1-6】労働市場と貯蓄低下、クレジットカード利用増の相関性
【1-7】石油・資源価格下落の見通し
【1-8】需要、生産拡大の見通し
以上に分類できるのですが、いかんせん今回も筆者の執筆時間に限りがあって、これらのネタもおおよそインフレピークアウトを感じさせる内容であること、そして今後の真のテーマとなりそうなセクターごと業績の見通しに関することなので、今回は以下の【カギその2】の執筆を優先すべきと思い、今日はそちらから先に書いていきたいと思います。
【カギその2】中間選挙や過去の暴落場面から学べる株価アノマリー
このネタについては、先に内容をどんどん書いてしまいましょう。
【2-1】月次系各種アノマリー
【2-1-1】1月株価マイナス影響アノマリー
機関投資家LPLファイナンシャル(2月1日付け報道)
1950年以降でS&P500が1月にプラスだと残りの11カ月は平均11.9%上昇したが、マイナスになった場合は平均2.7%の上昇にとどまった。しかし最近では傾向が異なるといい、1月にS&P500がマイナスとなった直近10回のうち9回はその後11カ月でプラスとなり、平均上昇率は13.1%(4500*13.1%=約5100ポイント)だった。
【2-1-2】4月株価マイナス影響アノマリー
※これは2022年5月23日株情報の記事の中で、【Ⅲ】ファンダ要因【19】③機関投資家BofAの分析が該当します。その重要点を再度まとめると、1928年以降のデータを分析し、4月の月間騰落率がマイナスの年は、その年の残りの期間に同指数が苦戦する傾向があるというものです。
【2-1-3】1月から5月株価マイナス影響アノマリー
機関投資家LPLファイナンシャル(5月30日付け報道)
S&P500種はこれまで、年初100営業日間のパフォーマンスが最も悪かった5年はいずれも年内に反転し、その後の7カ月間で平均19.1%上昇(S&P500種で4100*19.1%=約4900ポイント)している。
【2-1-4】1月から6月株価マイナス影響アノマリー
機関投資家LPLファイナンシャル(6月27日付け報道)
1932年以降の下落局面に関するデータによると、S&P500が年央時点で15%以上下落した年は、下半期に毎年株価が上昇し、平均リターンは24%近く(3800*24%=約4700ポイント)に達する。参考までに、BoFAグローバルリサーチが注目している一部の逆張り指標も、買いシグナルが点滅しているという。またナティクシスのストラテジストは、経済に関する多くの悪材料は織り込み済みで下半期は上半期より良くなる可能性が高いとみているそうで、特にグーグルの親会社アルファベットのような株価が大幅に値下がりしたバランスシートの強い大手ハイテク企業の株式に強気な見方を強めている。
【2-2】中間選挙アノマリー
機関投資家LPLファイナンシャル(1月24日付け報道)
1950年以降のデータから分析したところによると、中間選挙年の最後3カ月と翌年1-3月(第1四半期)と4-6月(第2四半期)は、4年間の大統領選挙サイクルで好調が目立つ時期だという。
【2-3】戦争アノマリー
調査会社ネッド・デービス・リサーチ(2月24日付け報道)
歴史を振り返ると、危機的出来事が市場の調整を引き起こしてきたが、相場は通常数カ月以内に下げを回復した。1907年以降54回の危機を検証した結果、ダウ工業株30種平均は危機のさなかに平均7.1%下落し、危機が終わって半年で平均9.7%反発したと分析できた。同社によると、ロシア・ウクライナ関連のリスクがエネルギー価格の高騰に拍車を掛け、企業利益の減速がコンセンサス予想より大幅になりかねないことはあるが、大局的に見れば、米株式相場が年前半に弱含み後半に回復する可能性があるという見通しに変更はないという。
【2-4】利上げサイクルアノマリー
機関投資家トゥルーイスト・アドバイザリー・サービシズ(1月24日付け報道)
同社の最高投資責任者によれば、1950年代以降の12回の米利上げサイクルで株式相場は年率で平均9%上昇し、そのうち11回でプラスのリターンだった。唯一の例外は、1973年から75年のリセッション(景気後退)に重なった72年から74年の期間だが、過去のデータでは基本的に米金融当局の利上げ局面では米国株は歴史的には好調な傾向があり、2022年は年初よりも良い基調で終了する可能性が高いと分析している。
※次に2022年5月23日株情報の記事の中で、【Ⅲ】ファンダ要因【24】①機関投資家東海東京調査センターの分析が該当します。その重要点を再度まとめると、1980年以降の過去9回の米国の金融引き締め局面で、1回目の利上げ後のS&P500種株価指数の推移(中央値)を試算すると、利上げ開始の2カ月後にボトムを付け、4カ月後にはプラス圏に浮上。6カ月後まで上昇した後は、もみ合い商状へと転じていた。今回では、3月15-16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で最初の利上げが決定。米S&P500種は4月以降に調整色を強め、約2カ月後である5月12日に年初来安値を付けた(実際には約3か月後の6月中旬)。それに対し、日経平均株価は最初の米利上げ後はほぼ右肩上がりで推移し、8-9カ月後にピークを付け、この間はS&P500種をおおむねアウトパフォームする傾向がある。この過去の経験則にのっとれば、米利上げ開始から8-9カ月後の本年11-12月まで日本株は強含むことになる。過去のピークまでの中央値は、最初の利上げ時(今回は3月16日終値2万5762円)に比べ10%強の上昇率(28300円)だったが、もっとも10カ月後からは日本株は調整し、高値圏で推移する米国株とパフォーマンスが逆転することもデータは示唆している、というものです。
【2-5】逆イールドアノマリー
※これは2022年5月23日株情報の記事の中で、【Ⅱ】需給動向【1】①機関投資家JPモルガンの分析が該当します。その重要点を再度まとめると、景気後退は通常、利回り逆転よりも前に始まることはなく、時差は最長2年後(2024年3月)と極めて大きい。さらに、この時間軸で株式のパフォーマンスは債券を大きく上回る傾向があって歴史的に見ると、株式市場のピークは利回り逆転から1年前後で起きている(つまり2023年3月)、というものです。
※次に2022年5月23日株情報の記事の中で、【Ⅲ】ファンダ要因【5】②機関投資家シティグループの分析が該当します。その重要点を再度まとめると、3月下旬、2019年以降で初めて逆転した米国債の逆イールドは、リセッション(景気後退)入りの警告サインと捉えられる一方、逆イールド発生後に米国株は通常上昇する。歴史的に見て、米国の2年債と10年債の利回りが逆転した翌年(つまり来年の2023年)にはリターンが限定的なものにとどまることが多いとは言え、米株は通常上昇してきた。そして3年目(つまり再来年の2024年)には米国株は下落することになるが、それでもなお国外の市場をアウトパフォームする、というものです。
【2-6】需給アノマリー
※これは2022年5月23日株情報の記事の中で、【Ⅱ】需給動向【2】①機関投資家岩井コスモ証券の分析が該当します。その重要点を再度まとめると、4月は長期資金の買い需要で、日米共に最大の現物買い現象が起きる傾向がある。次に11月と12月も買い越しが大きい、というものです。
【2-7】クレジットスプレッド変動アノマリー
※これは2022年5月23日株情報の記事の中で、【Ⅱ】需給動向【21】②債券調査会社クレジットサイツの分析が該当します。その重要点を再度まとめると、このところ、S&P500種株価指数は1月高値から20%近く下げたが、クレジットスプレッドの変動はそれほど大きくなくなってきた。債券調査会社クレジットサイツはこれを、株式相場の底入れが近いことを示唆していると指摘する。クレジットサイツは1998年以降、S&P500種が週間ベースで特に大きく動いた7つの期間を調査した結果、S&P500種が持ち直し始める平均42日前にクレジットスプレッドの変動がピークを付けていた。では今年はいつ、クレジットスプレッドの変動がピークを付けたのかと言うと、それは42日前よりさらに遡る3月だった。クレジットサイツによれば、過去のパターンがまだ生きているとすれば、株式の変動ペースは高くなり、S&P500種は底に近づいていくという、というものです。
【2-8】ボラティリティー関連アノマリー
機関投資家JPモルガン(2月9日付け報道)
同行ストラテジストによれば、シカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティー指数(VIX)が1カ月移動平均を50%余り上回る水準に上昇した場合に買いシグナルが現れる。この指標は過去30年間にわたり、リセッション(景気後退)期を除けば100%正確だという。直近では1月25日にシグナルが見られた。VIXの同シグナルが現れたのは1990年以降で21回。S&P500種株価指数はその半年後(2023年8月)に平均9%上昇(4300*9%=約4700ポイント)した。この法則が唯一当てはまらなかったのは2008年の金融危機時で、S&P500種はその6カ月後も33%安と低迷していた。
※次に2022年5月23日株情報の記事の中で、【Ⅱ】需給動向【23】②機関投資家モルガン・スタンレーの分析が該当します。その重要点を再度まとめると、連邦準備制度の利上げと差し迫った量的引き締めの影響を巡る不透明からボラティリティーのロングポジションのコストは上昇し、中国経済減速とウクライナでの戦争もこれを増幅させた。ボラティリティー上昇を見込む取引はヘッジ手段としてコスト高になり過ぎているため、一部の資産については相場変動がピークに達したとみるポジションを組むべきだ。ボラティリティー市場は、スポット市場が底を打つ前にピークを付ける傾向がある。例えば、S&P500種株価指数の1年間のレンジは3260-4930と示唆され(25日終値は3978)、10年物米国債利回り2.3-4.5%の範囲を示唆しているが、弊社の予想レンジは2.2-3.4%だ。ボラティリティー市場は弱気相場を十分織り込んでおり、現在の水準でボラティリティー上昇に賭ける意味はなく、インプライドボラティリティー(IV、予想変動率)は過去の水準に照らして全体的に高い、というものです。
【2-9】シティチェックリストアノマリー
※これは2022年5月23日株情報の記事の中で、【Ⅲ】ファンダ要因【30】⑤機関投資家シティグループの分析(5月26日付け)が該当します。その重要点を再度まとめると、シティの「弱気相場チェックリスト」のうち警鐘を鳴らしているのは18項目中6項目のみ。世界金融危機の前は13項目、2000-03年の株安前には17.5項目だった。過去において市場の警戒信号が現在と同じような水準まで減った際には、その後12カ月で株式相場は平均31%の健全な上昇(S&P500種で3900*31%=約5100ポイント)を演じた、というものです。
【2-10】暴落回復パターンアノマリー
※これは2022年5月23日株情報の記事の中で、【Ⅱ】需給動向【21】③調査会社ネッド・デービス・リサーチの分析が該当します。その重要点を再度まとめると以下となります。
株式相場は急落した後、底入れまで4段階のプロセスに従うことが多い。
第1段階では、主要な指数が極めて売られ過ぎの水準に低下する。
第2段階では、相場は反転上昇する。
第3段階では、反発が持続するか確認するために再び安値を試す。
最終段階では、短期間に下落銘柄数と比べて上昇銘柄数が極めて多くなる「ブレドス・スラスト(breadth thrust)」のクラスターが発生する。
本記事執筆時点の7月3日において、6月中旬からの反発が本当に最終第4段階(ブレドス・スラスト)の初動なのであれば、短期間に下落銘柄数と比べて上昇銘柄数が極めて多くなるクラスターがほどなく発生することになる。
【2-11】景気後退アノマリー
機関投資家ビスポーク・インベストメント・グループ(6月16日付け報道)
データによると、景気後退を伴う弱気相場はより長く深刻になる傾向があり、約35%の下落幅が中央値(SP500で、4800*0.65=3120)となっている。
【2-12】危機発生後定量分析アノマリー
機関投資家ソシエテ・ジェネラル(6月24日付け報道)
同行によれば、利益予想やバリュエーションと対立する要因として、1870年代以降の危機後の市場バリュエーションを定量分析を用いて研究した結果、底値のレンジ上限は3150(ピークからの下落率は約34%)、レンジ下限は2900(ピークから最大40%下げ)と導き出した。ソシエテ・ジェネラルは、歴史的な危機後の市場バリュエーションのトレンドライン(傾向線)に沿ったS&P500種の適正価額として、3020という数字を算出した。
【2-13】まとめ
さて、以上から推定到達株価をまとめると、以下のようになります。視覚的に認識しやすいように、ブル予想は赤字で、ベア予想は青字で書きました。なお、本稿執筆時点におけるS&P500種は3825ポイント、日経平均先物は26320円です。これらアノマリー群から筆者が持った印象は、2-11の景気後退と2-12の金融危機だけはどうにか回避して、今回の始末を景気の一時的減速で済ませることができれば、年末には他多くのアノマリーが示す結果になりそうに思えてきます。それはつまり、2週間前の株情報チャート分析の項目で述べたように、これからの下半期でWトップをつけにいく、というものです。
【2-1-1】1月株価マイナス影響アノマリー:S&P500種で年末5100ポイントに到達
【2-1-2】4月株価マイナス影響アノマリー:4月の月間騰落率マイナスの年は残りの期間にS&P500種指数が苦戦する傾向
【2-1-3】1月から5月株価マイナス影響アノマリー:S&P500種で年末4900ポイントに到達
【2-1-4】1月から6月株価マイナス影響アノマリー:S&P500種で年末4700ポイントに到達
【2-2】中間選挙アノマリー:本年10月から2023年6月までは、4年間の大統領選挙サイクルで好調が目立つ
【2-3】戦争アノマリー:大局的に米株式相場は、年前半に弱含み後半に回復する
【2-4】利上げサイクルアノマリー:S&P500種2022年末は年初4800ポイントよりも高く終了する。また、日経平均株価は本年11-12月まで強く28300円に到達する。
【2-5】逆イールドアノマリー:株式市場のピークは2023年3月前後(ただしリターンは限定的)で、2024年には下落
【2-6】需給アノマリー:日米共に11月と12月に長期資金の大きな現物買い需要が起きる傾向あり
【2-7】クレジットスプレッド変動アノマリー:3月以降、株式の変動ペースは高くなり、S&P500種は底に近づいていく
【2-8】ボラティリティー関連アノマリー:S&P500種は本年8月に約4700ポイントへ到達、また1年間の予想レンジは3260-4930
【2-9】シティチェックリストアノマリー:S&P500種で2023年5月頃に5100ポイントに到達
【2-10】暴落回復パターンアノマリー:第4段階のシグナルは、下落銘柄数比の上昇銘柄数が極めて多くなるクラスター発生
【2-11】景気後退アノマリー:景気後退発生でS&P500種は平均3120ポイントまで下落
【2-12】危機発生後定量分析アノマリー:金融危機発生でS&P500種は少なくとも3150ポイント(適正3020、最悪2900)まで下落