本書では、平成24年10月5日付け被告準備書面(1)に対する認否反論を行うとともに、原告が三村雄太氏が実在しないか、または実績が偽装されているものと主張する根拠について説明する。
(以下内容抜粋)
第1 被告準備書面(1) 第1「三村氏の実在性について」に対する認否反論
(中略)
そもそも本件書籍は、平凡な大学生であったとされる三村雄太氏が、2年3ヶ月の期間に株式投資で3億円儲けたという触れ込みで被告会社より出版された。いわば、巨額の株利益を強調して、出版という形態の営利活動を行い、その結果、被告会社によれば、19万部の販売に伴う巨額の印税を三村雄太氏が得たと同時に、被告会社も巨額の販売益を得たのである。その出版活動において、三村雄太氏が本当に実在するのか、そして本当に3億円を稼いだのか、客観的な証明は何らなされていない。
被告会社の提訴前の弁護士会照会や提訴予告に対する対応は、いわば出版業界の慣習とやらを理由に、「著者は匿名で、実績や経歴が詐称であると疑われても、真実と証明できる一切の証拠なんて開示しません。それが私たち業界の慣習なんで従ってください」ということである。何らの具体的、合理的証拠を示すこともなく、一方的に、株で巨額の利益を上げたと称して、本を自由に発行し、巨額の利益を得ることができてしまうのが現状なのである。
消費者からすれば、著者の実績等について客観的検証手段がないまま、タイトル等を信じて本を購入するわけである。では、その著者や実績が、書籍発行出版社が利益ほしさにねつ造した架空の人物であったら、信じて買った消費者はいかに保護されるのであろうか。また、そのような書籍により権利を侵害された競合他社はいかに保護されるのであろうか。
本件書籍のようなケースでは、著者や発行出版社は、その実在や実績の証拠を示す義務があるというべきであり、かかる義務が、例えば、プライバシーを理由に拒否できてしまうのでれば、こうした類の書籍出版にあたって、出版前も出版後も何らのチェック機能がまったく働かないことを意味する。被告会社は本件書籍の内容について、「記事内容の具体性、迫真性、決して想像では記載できないもの」と自画自賛しているが、そのような主観的な判断が証拠たりえないのは明らかである。
(中略)
第2 被告準備書面(1) 第2「三村氏の身分について」に対する認否反論
(中略)
そもそも消費者は、株式投資の「方法論」、つまり「本の中身」を見て購入を決定するわけではない。消費者が購入するにあたって購入を選択するのは、どのような方法が記載されているのであろうということを想起させる「著者の実績」や「タイトル」「広告」などの「表示」である。被告会社も、それがわかっているからこそ、本件書籍の表紙に「3億円」というタイトルを、紙面のおよそ半分に及ぶほどの大きさかつ極太の字体でこれでもかと強調しているのである。
仮に「2年3か月で30万円を3億円にしたという平凡な大学生」が、そもそも存在していないということがわかれば、誰がそのような虚偽の実績を表示された本件書籍を購入するのであろうか。否、購入するはずがない。このことからも明らかなように、著者の実在性や実績(「平凡な大学生」という身分を含む)は、消費者の購買意欲に非常に大きな影響を与える要素であることは明白であり、よって、これらの要素が競合者である原告書籍に甚大な影響を与えていることは明らかである。
ちなみに、著者の実績や身分が消費者の購買意欲に影響を与えることについては、被告会社自身が、本件書籍のPRとして「こんなにフツ―の三村クン」(身分)が「3億円稼いだ!」(実績)として身分と実績を強調し、そのうえで「それならきっとアナタにだって!!」などと消費者の購買意欲を掻き立てていることからも明らかである(甲16)。著者の実在性や実績が購買意欲に影響を与えないなどという被告の主張は、消費者の視点を欠いた詭弁に過ぎない。
(中略)
第4 被告準備書面(1) 第4「誤認惹起について」に対する認否反論
(中略)
イ 原告の体験すなわち投資実績の立証及び三村氏の実績の立証の容易性
なお、原告は、原告の「体験」が真実であることを証明するために、当該年度分の確定申告書の写しを提出する(甲17)。これにより、当該年度において、原告が株式により約1500万円の利益を上げていること、すなわち原告の体験たる投資実績が証される。なお、必要に応じて、原告が使用している証券会社であるSBI証券及び管轄税務署に申告が真実であるか照会して頂いて構わない。 本裁判は、端的には広告の前提となる体験すなわち投資実績が真実なのかどうか、を問うているのである。
この点、三村氏は容易に立証可能であるはずの実績の証明を一切拒んでいる。本裁判は、三村氏が、出廷したうえで、自身の実績を公的に立証すれば原告敗訴で終結する性質のものであるにもかかわらず、いまだにその作業をしようとしないのである。具体的には、三村氏が利用しているとされる楽天証券(甲15 73頁)のサイトにログインして、実現損益コマンドを入力し、2003年2月から3億円達成までの投資実績を表示することは極めて容易であり、本件でも三村氏は出廷のうえ、原告及び裁判官の前でそのような情報開示をすればいいだけの話である。
(中略)
第5 被告準備書面(1) 第5「因果関係について」に対する認否反論
1 同2について
否認ないし争う。
被告の言うように、消費者が投資関連書籍を2冊以上購入することがありうることは認めるが、他方で、著者の実績を表示している投資関連書籍のうち、「3億円」と記載のある本件書籍と、「1500万円」と記載のある原告書籍について、2冊とも購入するかといえばそれは消費者からすれば否定的とならざるをえないであろう。そして、消費者心理とすれば、1500万円と3億円であれば、当然3億円の方を選択するのは当然である。 このことは、皮肉にも、被告会社の週刊SPA記事中のイラストにおいて、「株の本って、いっぱいあって、どれを買っていいか分からないよ」「はいっ!!そんな君には三村雄太の3億円シリーズ!!」などと記載している(甲19)ことからも明らかなように、被告自身、消費者が他の投資関連書籍を差しおいて、本件書籍を購入することを想定しているのである。
2 同3について
否認ないし争う。
(中略)
さらに、2冊の書籍が発刊された平成2005年8月当時の金融・証券・株関連書籍の月間ベストセラーでは、本件書籍が1位、原告書籍が3位にランクインしている(甲20)。
このように、本件書籍と原告書籍は、当時、極めて密接な競合関係に実際にあったことは明らかである。
よって、被告会社の回答によれば発行部数が19万部にも及ぶ驚異的な販売実績を挙げているであろう本件書籍が、仮に誤認惹起表示に基づく書籍であったとすれば、原告書籍に著しい影響を与えたことも明らかであり、因果関係がないとの被告の主張には理由がない。
第6 三村雄太(筆名)の実在性について
(中略)
また、三村氏が実在するのであれば、被告会社は本件書籍の内容について、「記事内容の具体性、迫真性、決して想像では記載できないもの」とまで自画自賛しているわけであるので、三村氏の投資の実体験を記載した本件書籍及び「週刊SPA!」の三村氏連載記事(以下「本件書籍等」という)に矛盾が生じたり、客観的事実との差異が生じることはないはずであるところ、以下のような矛盾点がある。
2 カネボウ株主代表訴訟に関する記載と三村氏の居住地に関する記載との矛盾点
(1) 三村氏はカネボウ株主代表訴訟原告団の一員であること
本件書籍等には、別紙1【カネボウ関係記載引用一覧】(甲21ないし甲24)のとおり、三村氏がいわゆるカネボウ株主代表訴訟(平成18年12月13日提訴。原告501名、被告カネボウ株式会社 事件番号 東京地方裁判所平成18年(ワ)第28061号)の原告団の一員であり、1万株を保有していたことが記載されている。
(2) カネボウ株主代表訴訟提訴時に愛知県在住であること
本件書籍等によれば、別紙2【愛知県在住関係記載引用一覧】のとおり、提訴時である平成18年(2006年)12月13日頃、三村雄太氏は、愛知県しかも名古屋市及びその近郊に居住しているといえる。
また、被告も被告準備書面(1)第2の2において、三村氏は、名古屋市の中堅私大に通う大学生であったとしていることからも、愛知県しかも名古屋市及びその近郊に居住していたといえる。
(3) カネボウ株主代表訴訟控訴時に東京在住であること
カネボウ株主代表訴訟は、平成19年(2007年)10月10日に東京高等裁判所に控訴提起がなされている。
そして、本件書籍等では、別紙3【引っ越し関係記載引用一覧】(甲25、甲26)のとおり、三村氏は、平成19年(2007年)4月には東京にある社会人向け大学院に通っていることになっており、入学時した同年4月から東京へ進出と東京へ引越をした旨が記載されている。
(4) 上記(1)〜(3)の記載の矛盾点
ア、
そこで、原告は、平成24年10月3日、カネボウ個人株主の権利を守る会を照会先として、カネボウ株主代表訴訟の原告のうち、1万株を有していた男性で、提訴時に愛知県在住かつ控訴時に東京都在住の人物について、東京弁護士会に対して弁護士法23条に基づく照会申出を行なった。そして、東京弁護士会は、同照会の必要性を認め、カネボウ個人株主の権利を守る会へ照会請求を行った(甲27 弁護士会照会請求書)。
同照会の結果、カネボウ株主代表訴訟提訴時に愛知県在住かつ控訴時に東京都在住となっている者は存在しないことが判明した(甲28 甲27に対する回答書、甲29 照会の回答書と照会申出書の同一証明)。
イ、
さらに、弁護士会照会請求の結果、カネボウ代表訴訟の原告のうち、提訴時に名古屋在住で、一万株を有していた者は、それぞれ、現在33歳、67歳、76歳であり、現在20代の者は一人も存在しない(甲28 照会回答書)。
しかし、本件書籍には三村氏が83年生まれとの記載があることから(甲15 本件書籍207頁)、三村氏は現在29歳となる(甲30)。
よって、三村氏に該当する人物はカネボウ株主代表訴訟の原告に存在しない。
ウ、
このように、本件書籍等におけるカネボウ株主代表訴訟に関する記載と三村氏の居住地(補足 年齢も)に関する記載との間に大きな矛盾がある。
したがって、三村氏の存在自体が捏造された架空の存在である疑いが濃厚であるといえる。
3. ソニーの株価の下落時期と三村氏の同時期の口座残高の矛盾
(1) ソニーとセガ株により資産を30万円まで減らしたとの記載
本件書籍14頁によると、「2003年、大学2年のときに、親から借りたお金とお年玉を貯めてきた70万円を資金に、満を持して株を始めた」とある。そして、「このとき買った株は、セガとソニーでした」との記載がある。
そして、本件書籍15頁では、「でも予想は大外れ・ソニーは2000円台まで下げ続け、結局、両銘柄とも大損して、資金は30万円にまで減ってしまいました」との記載がなされている。
(2) ソニー株の推移
ソニー株が1株2000円台をつけたのは2003年では4月28日から5月22日までのみである(甲31)。
その後ソニー株は2003年中には一貫して上昇し続けていることから、三村氏の口座残高が70万円から30万円になってしまった時期は2003年4月28日から同年5月22日までに絞られる。セガ株については本件書籍中に具体的な数字についての記載がないものの、ソニー株と概ね同様の値動きをしている(甲32)。
(3) 三村氏の資産推移グラフとの矛盾
ところが、本件書籍51頁のグラフ(甲33)によると、同年4月の口座残高は40万円、同年5月の口座残高は43万円となっており、本件書籍15頁の「資金は30万円にまで減ってしまいました」との記述と矛盾している。
同グラフ中、同年2月は口座残高が36万円、3月は35万円となっており、口座残高が70万円であった時期の記載も、70万円が30万円まで減ってしまった事実を示す記載も同グラフ中に存在しない。
(4) 三村氏が口座残高を60万円にしたとされる時期と本件書籍中のグラフの記載との矛盾
次に、本件書籍22頁の見出し部分にて「口座を開設、半年で30万円から60万円に」との記載があるが、前述したとおり、被告三村の口座残高が30万円まで減ってしまった時期は2003年4月28日から5月22日までしかありえないのであり、ここから半年で30万円を60万円にしたとの記載を前提とすると、三村氏が口座残高を60万円にした時期は、同年10月、11月となるはずである。
しかしながら、本件書籍51頁のグラフによれば、同年10月の口座残高は127万円、同年11月の口座残高は97万円となっており、文中の記載と本件書籍掲載のグラフの数字とが全く一致していない。
この点に対しては2003年2月を基準に考えれば、半年後の同年8ソニー株のチャートによれば同年2月の段階では同社の株は1株4500円以上の値をつけており、三村氏の口座残高が30万円まで減少する契機が存在しないことから、いずれにせよ本件書籍に看過できない矛盾が生じていることは確実である。
5. 三村氏の年齢と口座開設時期の矛盾
本件書籍の73頁の記述において三村氏は、「ボクは株を始めてからずっと、DLJディレクト証券時代からの楽天証券ユーザーです。ほかはほとんど使ったことがないので、よくわからない」などと記述し、楽天証券のユーザーであることがわかる。
楽天証券では、未成年の口座開設はできないと明記されており(甲34)、これは原告においても2003年当時から同じ運用であったことを同社に確認済みである。
そして、三村氏は、1983年生まれ(本件書籍207頁プロフィール等)とされているが、年齢対比表(甲30)及び以下の点から、2003年4月にならないと満20歳にはならない。すなわち、本件書籍では、「2003年、大学2年のときに、親から借りたお金とお年玉を貯めてきた70万円を資金に、満を持して株を始めた」(14頁)、「2004年2月」「大学2年も終盤」(25頁)などの学年進級状況の記載から、三村氏が楽天証券口座の開設ができる満20歳以降になるのは少なくとも2003年の4月以降である。
ところが本件書籍51頁のグラフ(甲31)では、それ以前の2月には口座開設できてしまっていることになり、説明できない矛盾が発生している。
(中略)
7. 本件書籍と三村氏の書籍2冊目の記載内容の矛盾
週刊SPA!2005/3/29号(実際の発売日は発行日の1週間前、3月22日)によれば、下記の記載がある(甲35)。
記
「1年間で100万円 ⇒ 2億200万円にした名古屋の平凡な大学生の秘訣とは?」
プロフィール・2004年3月~現在利益2億200万円(元資金100万円)
(中略)
「でも儲からず、元手100万円が30万円まで減っちゃった」「親から借りた100万円。ヤバイと思った三村くんは、儲かると話題になりだしていたデイトレーダーへの転向を決意。そして月額7000円の大手有料株情報サイト「キッチンカブー」の会員となった。サイトにあった「短期売買」「損切り」「銘柄選び」などを、まずは、マネすることで再起をかけ、元の100万円まで回復したのが昨年(2004年)の3月。」
このように、週刊SPAの記事(甲35)では、100万円まで回復したのが、2004年の3月とされている。他方で、本件書籍(甲15)を見ると、51頁のグラフ(甲33)では、この時期2004年3月は841万円を達成となっており、本件書籍と完全に不一致・矛盾が生じている。
(中略)
8. 本件書籍と三村氏の書籍2冊目の記載内容の矛盾
三村氏は2006年2月28日に、「3億円大学生が徹底指導した勝利の鉄則」と題する書籍を、被告会社を発行所、被告佐藤をライタ―として発行している。同書籍の10頁、11頁(甲36の1)、180頁(甲36の2)には、下記の記載がある。
記
「2006年1月現在、大学卒業間近のボクの資産は3億6000万円ぐらい。でも、ここまでに至る道は決して平坦ではありませんでした。ボクが株投資を始めたのは大学2年生の春。元手は親からの借金と、虎の子の貯金をかき集めた70万円。手始めに、大好きなセガやソニー株を買って保有していたのですが、結果は散々。わずか半年で30万円に減らしてしまいました。
大学2年を終わるころには100万円を突破しました。その後、仕手株に全資産を投入し、資産は1カ月で一気に4倍に」(甲36の1)
「大学2年生のとき、セガやソニー株を塩漬けさせて、元手70万を30万に減らしてしまって・・・。」(甲36の2)
上記文章によると、「ボクが株投資を始めたのは大学2年生の春」とは、2003年の4月のことであり、その後、セガやソニーを買って保有していたが、半年で30万円に減らしたと記述されているが、半年後は10月になるが、ソニーの株価が4月から5月に2000円台をつけた後、10月まで上昇し続けていることから(甲31)、30万円に減らすことは不可能であるはずである。
また、「カブーの会員になった2年生の夏休みから、本格的に株投資を始めることにして、30万円から再スタート」と記述されているが、本件書籍では、半年かけて30万を60万にした時期が、その夏休みの8月とされており(甲33)、矛盾を生じている。
さらに、「大学2年を終わるころには100万円を突破した」と記述されているが(甲36の1)、本件書籍では100万突破の時期は2003年9月であり、大学2年を終わる頃の2004年2月3月には255万が841万になったとグラフにあり(甲33)、矛盾を生じている。
本件書籍と三村氏の書籍2冊目の担当ライターは共に被告佐藤氏である。それにもかかわらず、両書籍にかような矛盾だらけの記載をしたのは、三村氏自身が架空であるか、その実績が偽装されたものであるがゆえに、両書籍間の矛盾というミスに気づくことができずに、整合性をとることができず、また三村氏自身が存在しないか実績が偽装されているために、三村氏自身によるチェックにおいても両書籍間の矛盾が是正できなかったものと判断せざるを得ない。このように、本件書籍における被告佐藤の関与は極めて強いものであって、三村氏及び被告会社と同様の責任を負うというべきである。
(中略)
10.総括
これらの矛盾点を分かりやすいように時系列に比較して表にしたものが甲38号証である。
上記のように、本件書籍は三村氏の実際の体験に基づいておらず、架空のストーリーに基づいて記載されたものであるがゆえに、上記のような大多数の矛盾が生じることを回避しきれなかったものと思料される。
書籍や雑誌を出版するにあたっては、著者が必ず事前にゲラのチェックを行うものであり、著者が実在しているのであれば、同ゲラチェックの際に誤植等に気がつくはずであるから、同一人物の書籍等の間で上記のように矛盾が生ずることは到底ありえない。にもかかわらず、三村氏の書籍間や雑誌の内容の間でここまで内容が矛盾しているのは、三村氏が存在せず、フィクションで記載をしているがゆえに、齟齬が生じてしまったからに他ならない。
被告会社においては、上記矛盾について不正競争防止法6条に従い、具体的な態様を明示のうえ、合理的な説明をすることを求めるとともに、提訴前の弁護士会照会や提訴前照会請求に対して直ちに回答するよう求める。