日銭を稼ぐよりトレンドに沿ったスイングトレード

質問

私は株式投資を始めて10年程度たちます。
株投資では、トータルではプラスにはなっているのですが、私のやり方は安値をゆっくり拾っていき、上がったら売る、というもので、損切はしません。(倒産が確実になったら別です)
過去最安値になっても手が打てる程度まで資金を温存しなければならず、資金効率が悪いです。そして、一番の問題は、日銭を稼ぐことができません。(毎月稼ぐということができません)

返答

期間10年に及ぶ投資成績がトータルでプラスというのは、非常に優秀なほうだと思います、自信を持って良いと思いますよ!
そしてなぜプラスであることができたのか?その勝利の原因を渋谷高雄株式投資大百科(以下、大百科と略記します)で解説していることをベースに考察ができるのです。

まず、日経平均の月足10年チャートを表示してみて下さい。
今からちょうど10年ほど前にリーマンショックが発生し、日経平均は当時の半値近くまで下落しました。そしてその後、約4年間の旧民主党不況時代のボックス相場を経て、2013年以降にアベノミクス政策の発動により上昇トレンド相場が生まれます。途中の2015年後半に上海市場の大暴落をきっかけとしたチャイナショックによる下降トレンドが発生しますが、支持線で支えられると再び上昇トレンドに入り、現在に至るのです。
つまりこの10年とは、最初の1年が下降トレンド、次の4年がボックス相場、次の3年が上昇トレンド、その後半年間の下降トレンド、そして現在までの残り約2年の上昇トレンド、と整理することができます。

S様の投資手法が、主な要素として、
【A】安値をゆっくり拾っていき、上がったら売る
【B】倒産が確実にならない限り、損切りはしない
【C】過去最安値になっても手が打てる程度まで資金は温存しておく

以上3点が上げられますね。

私が真っ先に思ったのは、個人投資家が株式投資で成功するために「絶対に」必要不可欠である「資金管理」(大百科第9章)が、【A】と【C】とで最初からきちんとできていることが素晴らしい、ということでした。

分かりやすいように反対側から考えてみましょう。
【Aの反対側】安値をいきなり全力で拾い、上がったら売る。(しかし、下がったら?)
【Cの反対側】資金は温存しない。(つまり過去最安値になるどころか、そのかなり手前で手は打てない。)

と、こうなります(笑)

上記のように、この10年間の中でも下降トレンド局面やボックス相場局面はあったわけで、そこをしのぐことができたのは、ひとえにこの資金管理ができていたことに拠るはずなのです。S様のトータルプラスの実は隠れた原動力が資金管理であったと私は確信しています。

これがそうではなく、「AやCの反対側」を見れば一目瞭然なように、資金管理ができておらず、毎回が一撃必殺の全力トレードであったなら、途中の下降トレンド局面で資金は壊滅していたはずなのです。
そしてもうひとつ、いわば「資金管理を徹底しながら、安値を拾い、上がったら売る」という投資手法が、この10年間の特に後半のマーケットサイクルが上昇トレンドであったことで、S様の投資手法に合致していた(大百科第4章)。このこともまた、トータルプラスの大きな要因であったはずです。
つまり、資金管理をきちんと守りながら、投資手法がトレンドの方向に合致していたため、損切りをしなくても結局は勝つことができていた。まさにこう言えるでしょう。
ですので、お悩みである「資金効率が悪い」という点を反省して改善する必要はないと私は思うのです。

S様が資金を温存するのは、過去最悪の事態になっても手を打てるようにしておくためで、それを「資金効率が悪い」と思わないほうがむしろいい。
発想を変えてしまったほうがいいのです。
毎回全力トレードだと、過去最悪の事態のはるか手前で手も打てず終わり。これでは資金効率どころの話しではありません。よって、資金管理により部分的に温存することこそが、結局は資金を生かしており、効率良く使っているのだと。

さて次に、「一番の問題が日銭を稼ぐことができない」ということですが、結論から先に申しますと、そのように思わないほうがいいです。そう思うことは、間違いなくトレードに悪影響を及ぼします。思わないほうが、結局はトータルでの勝ちにつながっていくものです。
日銭を稼ぐことができなければ、株で食っていけない。
こう思われていませんか? 決してそんなことはありません。
その理由を、渋谷の実際の経験を元に順を追って説明していきましょう。

【1】 2015年夏のチャイナショックでの渋谷の思考

2015年の冬も終わり、春が訪れたものの、まだ寒さも残る日々、私はニュースで中国の個人投資家の浮かれた姿を見ました。当時の上海株式市場は急騰を続けており、満面の笑顔で「たった1日で、給料の何倍も株で儲かるんです。これは共産党政府からの私たち人民へのプレゼントなんです!」と生真面目にコメントしていたのを見て、思わず失笑しましたが、同時に例の靴磨きの啓示を思い起こしたのです。私は上海のチャートを念入りに分析しました。そして同時に、過去の中国発世界同時株安の場面の記憶をたどったのです(これは大百科169ページでも述べています)。そして近いうちに、浮かれきった上海市場の上昇トレンドは転換して、下降トレンドに入る、最悪は大暴落が発生すると予想しました。そしてそのタイミングを見逃してはならないと方針を定め、買いでのトレードは大暴落に巻き込まれる危険があるため、早めに停止して、売りで入るタイミングを伺うことにしたのです。

結果として、渋谷高雄技心研ホームページの主な沿革の部分で述べている通り、2015年8月の1ヶ月で約5000万円の利益を上げることができました。しかし同時に、上海が大暴落を開始したにも関わらず、日経平均がなかなか後追いしなかった6月と7月はほとんど利益を出せなかったのです。過去の記録を見ると、6月は600万円のプラス成績ですが、7月は1000万円近くのマイナス成績だったのです。これは大百科第4章、特に167ページでも述べていることですが、
(引用すると、「ただし、スイングトレードはあるストレスを抱えさせる宿命にあります。トレンドが転換する株価、時期をピンポイントで捉えることはできない。すなわち、頭と尻尾はくれてやらねばならない」)
いかがでしょう?ここにおける渋谷の発想に、毎月、毎日を生きていくために、毎月プラスでなければならない、日銭を稼がなければならない、という考えはありません。私はストレスを抱えながらも、はやる気持ちを抑え、6月、7月はチャンスを待ち続けたのです。そして8月にチャンスが本当にやってきて結果を手にすることができた。このように、株で生きていくためには日銭を稼がなければならないという強迫観念に捉われるのではなく、マーケットの動きに自分の行動を合わせていれば、稼げない月があっても、結局はトータルでプラスになれる、という発想でいくことが大事なのです。

【2】大百科第10章で訴えていること

 他に全く収入がなく、株のトレーディング利益だけで生活していこうとするのは非常に困難です。よって技心研では、兼業トレーダーから入ることを強く推奨しています。(詳しくは大百科第10章、「渋谷がデイトレードで失敗し、スイングトレードで成功するまで」の部分で述べています)
なぜ困難か?
しかしながら、相場の動きに慣れて、過去の経験値を相当積み重ねれば、今の私のように不動産家賃収入が別途にあるにしても、株のトレーディング利益だけで、ぜいたくはできないかもしれませんが、最低限の生活費くらいは稼げるといった芸当ができるようになるのは事実です。
しかしながら、初心者大多数の現実とは、その芸当の域に達する前に、収入が他にないと焦りからトレードがおかしくなり、結局は再度働かざるを得なくなってしまうものなのです。
言わば、大いなる矛盾ですが、本来は働きながら副収入を得て、相場に慣れ経験を積んで資金が巨大になってから仕事を辞めるべきなところ、先に仕事を辞めてしまい、株で生きていかねばならず、焦りから利益確定が早くなりがちになり、損切りは遅くなりがちになり、結果としてうまくいかず、最後は再就職せざるを得なくなる、という事態になってしまうのです。
何より、渋谷自身がこうした経験をしているのです。
渋谷がデイトレーダーとして失敗し、自己資金が枯渇状態になって、再就職した後のことをお話ししましょう。

渋谷高雄と技心研各メンバーの思想とは、要約すると、

【予想順位1】
チャート分析その他の結果、アメリカがしばらく(数日~数週間くらいの期間で)上がりそうだ
   ↓
【予想順位2】
チャート分析その他の結果、為替もしばらく円安になりそうだ
   ↓
【予想順位3】
だから日本株もしばらく上がるであろう、チャート分析その他もそれを裏付けているようだ
   ↓
【実際にシナリオ作成の作業に入る】
だから日本株の買いトレードで良さそうな銘柄を複数ピックアップして資金管理に乗っ取りエントリーして、数日~数週間後に利益が乗ったものを確定することを狙うとしよう

といった、いわゆる「スイングトレード手法」しか個人には勝てる土俵が残されていないのである、この結論をベースとしています。
このスイングトレード手法を成功させるために、まず鍵となるのが大百科第4章で解説しているマーケットサイクルが理解できるようになることです。

私がなぜ、このスイングトレード思想に行きついたのかというと、個人投資家とは弱小の存在であり、勝つためにできることや選択できる方法は限られている、という弱気の発想を受け入れたことから始まりました。弱小の存在には、機関投資家が駆使するような超高速取引のようなことはできません。それこそ、その超高速取引システムは年間でのマイナスが1回か2回くらいしかなく、あとは全部プラス、まさに日銭を稼ぐことができていますが、あまりのズルさ、そして「貯蓄から投資へのプロパガンダ=洗脳」の実態とかけ離れた姿(笑)に、呆れ果てた政治家が規制しようと発言したこともあるくらいです。ましてや現在は、東証アローヘッドが進化発展を遂げた成熟段階にあり、そのアルゴリズムシステム全盛期時代なのです。

例えば、平日の昼間にザラ場を見ることができる時があれば、出来高が少なめと思われる銘柄において、試しに最前線の買い板に自分の注文を指値で並べてみて下さい。するとあら不思議、瞬時に売り板が数段消滅して、代わりに自分の置いた買い板の上に数段の買い板が並ぶのが体験できるでしょう!これはアルゴリズムが、できるだけ高い位置で買わせる、もしくはできるだけ安い位置で売らせようと即時感知しているのです。これはほんの1例ですが、このように個人投資家は、特に時間軸の短い短期売買において圧倒的に不利なハンデを背負わされているといっても過言ではないのです。

つまり、政府や証券業界は少なくとも表向きは「貯蓄から投資へ!」というスローガンを掲げており、個人投資家には長期投資をしてほしいのであって、短期売買で高利益を上げることなど証券会社自己売買部門の特権であって、個人にそんな恩恵を与えたくない、だからこそこうした搾取システムの構築に余念がないのだと考えていいでしょうね。結果としてアルゴリズムシステムが高度に発達し、デイトレードは以前にも増してやりにくくなりました、例えば結果として、かつて10年くらい前、職人芸で板を見ながら日計り売買で好成績を継続していた地場証券ディーラー勢も、アルゴリズムシステム全盛期の今、そのほとんどが駆逐され失職したと聞きます。

つまり、時間軸の短いトレード手法(デイトレ等)は、アルゴリズムシステム、外資、自己、機関投資家といった強者に圧倒的に有利な構造のため、その土俵は避け、強者による株価操作の影響ができるだけ薄まる時間軸を長く捉えた土俵で勝負するしか個人投資家には残された手がない、と言えるのです。
つまり、数日から数週間というのが私たちのような「一般人」でも予想が多少可能な期間だということなのです。

例えば、今回の技心研ホームページの株情報の4月9日分と5月8日分が参考になるかと思います。株情報には書きませんでしたが、為替ドル円も大百科第5章の2で解説していたような分かりやすいチャートパターンで、今後しばらく円安にいきそうであることが読めたのです。結果として、アメリカダウのチャートに加え、為替からも日本株はしばらく上がりそうと今回は読みやすかったわけなのです。

そうです、この程度の予想なら個人投資家レベルでも可能なのです。

しかし、日銭を稼ぐ、つまり必ず毎日プラスの成績を残したいということは、極端な言い方をすれば、毎日毎日の「分足」の動きを正確に読み取らなければならない、ということであって、精巧なアルゴリズムシステムによるダマシ、フェイントの嵐である分足の動きを個人の脳で毎日正確に読み切るのは試しにやってみればほどなく、まず不可能だと悟られることでしょう。
大百科各章でも書いている通り、スイングトレードは、一定期間の上昇や下降のトレンドを捉えることができれば、利益を大きく伸ばせる手法なのです。

そしてもうひとつ大事なことをご説明しましょう。

大百科第10章でも触れていますが、かつて専業デイトレーダーとして、利益確定だけはデイトレードで、損切りだけは利益になるまでスイングでしていた私は(笑)、ほどなく資金が壊滅して働かざるを得なくなり再就職しました。

そこは最初は小さな会社だったので、電話応対、来客対応、契約業務、各種書類作成、物件調査、内見案内、家主訪問など、ありとあらゆる業務を私もやらねばならず、目が回るような忙しさで、9時から15時の相場は移動中の電車内やトイレでちょっと見ることができる程度で、あとはほとんど見ることができませんでした。

しかし、大百科第4章マーケットサイクル編で書いてあるような方法で、これからしばらく上がりそう、もしくは下がりそう、といった予想ができる局面になると、私は出勤前に少量の注文なら成り行きで、しかし成り行きではいくらで約定するか分からないので不安で嫌な時は指値注文を数段に分けて入力して仕込みを入れる、そうしたトレードをしていました。

ある時、業務の忙しい日中に株価を全く見ることができず、夜になって仕事がひと段落してから、そういえばあの株は、今日どんな結果だったろう?
と株価をチェックした時、場中は激しいフェイントだらけの分足だったのが、14時30分くらいから急伸して(笑)、結果的に含み益が増大していたことがあったのです。
「14時半までは、まるで蛇がのたうち回るような動きじゃないか・・これをデイトレーダーとして場中見ていたら耐えられなかっただろうな・・」
としみじみ思ったものです。
その買いポジションは、きっと分足を見ることができる環境であったら、心理的に耐えられず、薄利で利食いしてしまって手放していた可能性が高い。
しかし分足を見ることができない環境ゆえに、保有を続けることができて、結果として含み益増大の恩恵に預かれた。
数日後、さらに大きな含み益となり、利益確定できたことを覚えています。

さらに、働くようになってから毎月安定した給料が入るようになったことで、株で食うために最低限生活費は稼がなければならないというプレッシャーから解放され、「早い利食い」や「遅い損切り」というトレーダーの大敵である人間の本能に左右されにくくなったのです。

このように、株以外の別の収入源を持つことは、心理面で余裕を持てる大切な要素と言えるのです。
「しばらく上がりそう」と予想した後に、株を持ち続けることがいかに困難なことか!
それは皆さまほとんどが共感して下さることかと思います。
それを克服できるようになるまで、大百科456ページでも述べているように、独学の私は6年間くらいもかかったのです。