本裁判の事実上の最大の争点は、
といった投資実績を強調して営業活動を行う匿名の人物に
その投資実績を証明する義務があるのかないか
「証明せよ!」と訴訟を起こしたのが本名で活動する渋谷高雄(以降、原告:渋谷側と表記する)。 そして起こされたのがペンネーム:三村雄太と、その出版物を何点か出していた株式会社扶桑社とそのライターであった(以降、被告:三村・扶桑社側と表記する)。
裁判に至る前段階、提訴予告通知の場などでの渋谷側の三村・扶桑社側への要求はいたって簡単であった。
「30万円を3億円にしたというなら、その証拠を提示して客観的に証明せよ!」というものである。
「それであっさりともめごとは終わるし、それによって三村さんの信用度もさらに確固たるものに強化されるわけだから、断る理由もなかろう」という論理である。
しかし、三村・扶桑社側は要求を断固拒否。
理由は「そんな義務はない、プライバシーの問題、個人情報保護等」であった。
そこで舞台は裁判の場に移り、当初何回かの弁論の場で、渋谷側と三村・扶桑社側との間で攻防が続いた。
当初の三村・扶桑社側の主な主張は、
【顧客にとって重要なのは、投資家の投資実績ではなく、書かれた内容そのもの、いわば投資手法である】
という論理であり、顧客の興味が【著者が書いた投資手法の内容】に尽きる以上、【著者の投資実績の真偽】については重要ではないという反論であった。
これに対し、渋谷側の主張は【著者の投資実績が虚偽であれば、顧客はそもそもその著者の投資手法に興味すら持たず、商品を購入すらしない】と応じた。
両者の主張は平行線のままであったが、裁判官は渋谷側に「どうして三村氏の投資実績が怪しいと思うに至ったか、具体的に羅列して」と指示を出した。
そこで渋谷側はそれらを箇条書きに整理していたが、その作業過程の中で、三村氏が参加したというカネボウ裁判の記録から、本人を割り出せる可能性を見出したのである。
(扶桑社は三村雄太氏がどこの誰かの開示を拒否していた)
カネボウ裁判の記録が決定打になりうると考えた渋谷側は、裁判の行方が以下どちらかになりうると考えた。
【方針A】裁判記録から該当する人物が存在しなかった場合、扶桑社が架空投資家をねつ造したことが立証できる。
【方針B】裁判記録から該当する人物を特定できた場合、その者の住所管轄税務署に税務申告書類の照会により、真偽は判明する。
数度にわたる弁論の攻防の場で、担当裁判官の感触は「やっぱり嘘はまずくない?」といった手ごたえはあった。
三村雄太氏が存在するのかしないのか、存在するならどこの誰かさえ解明すれば「投資実績の証明は大事でしょ?」という裁判官の感触から、裁判の流れを原告優位に持ち込めると渋谷側は期待したのである。
(実際に判決においても、ストーリー上の多少の脚色は仕方ないにしても、主要な投資実績は真実である必要がある、と裁判官は判断したのである)
そして、該当する本人は存在した!
渋谷側が指摘した多くの矛盾点については、母親の口座を借名していた等の弁解で応じてきた。
そこで渋谷側は「到底信用できませんね。それでは、管轄の税務署に文書提出命令を出して頂くよう裁判所に申請するので、同意して頂けますよね?
何もやましいことがないのなら断る理由はないはずです。これで裁判はあなたの勝ちですぐ終わります」という論法で、三村・扶桑社側に迫ったのである。
すると三村氏は、ようやく特定口座年間取引報告書の写しを提出してきたものの、税務署への照会はなお拒否したのである。
渋谷側は「あなた自身を経由しての証拠ではなく、税務署という絶対中立で偽造もありえないところからの証拠が欲しいんですよ、だって同じものが出てくるんでしょう?
ならいいじゃないですか?それで原告の完敗が確定するわけですから」という論法でまたも迫ったのである。
しかし、三村・扶桑社側は、この税務署への照会についてだけは最後まで絶対反対の姿勢を変えることはなかった。
よって控訴審最大の攻防は、この税務署への照会を認めるか否かとなったのである。
渋谷側には残念なことだが、高裁は税務署照会を認めず、三村氏の提出した特定口座年間取引報告書の写しをもって証拠十分との判断を示したのである。
敗訴とはなったものの、得るものが二つあったと渋谷高雄は考えている。
ひとつはこの裁判を通じて、裁判所の【著者の主要な投資実績は真実である必要がある】との判断をもぎ取ることができたこと。
(あとはその証拠提示方法が「税務署を経由して」という点について、ついに裁判所の理解が得られなかった点だけが何とも残念である)
そしてもうひとつは、【課税証明書といった公的書類での実績の証明ができるのが、なお渋谷だけである】という事実に変化はなかったこと。
東京地裁判決結果
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20140311150108.pdf
判決に至るまでの経緯、双方準備書面等から抜粋
【1】平成23年10月17日 / 原告:被告に対する弁護士会照会請求
【2】平成23年10月17日 / 被告:【1】に対する回答書
【3】平成23年12月15日 / 原告:【2】に対する再度照会・異議申立書
【4】平成24年1月23日 / 被告:【3】に対する回答書
【5】平成24年3月2日 / 原告:提訴予告通知、提訴前照会請求
【6】平成24年3月16日 / 被告:【5】に対する回答書
【7】平成24年5月27日 / 原告:提訴・訴状
【8】平成24年7月11日 / 被告:訴状に対する答弁書
【9】平成24年7月11日 / 原告:準備書面(1)
【10】平成24年8月27日 / 原告:準備書面(2)
【11】平成24年10月5日 / 被告:準備書面(1)
【12】平成24年10月5日 / 第2回弁論準備の場において
【13】平成24年8月27日 / 原告:準備書面(3)
※以下、随時更新します。